■ 銀座奥野ビル三〇六号室プロジェクト ■

 「銀座アパート」(現;奥野ビル)は一九三二年竣工しました。それから間もなく一人の女性が入居し美容室を開業します。開戦、終戦、戦後の復興を経験し、昭和六〇年代に廃業。その後は住居として利用し、二〇〇九年百歳を迎えた直後に逝去されました。

 わたしたちは幸いにして、遺品整理の後、修繕などの手が加えられる前に借り受けることができました。

■ 概要 ■

 「銀座奥野ビル三〇六号室プロジェクト」は、三〇六号室を維持しつつ活用しよう、という非営利活動です。さまざまなバックグランドをもつメンバーが緩やかに関りあいながら、思い思いの企画を進めています。

「維持」とはいえ、遺跡を保存するというような意味での維持ではありません。三〇六号室では、たとえばペンキや壁紙が時々刻々朽ちて剥落し、前の借主の記憶は漂白されつつあります。昭和初期から平成初期にかけてひかれた一本の線は、次第に点線になり、点と点の間隔が大きくなり、その間隔が極大化したとき、忘却されるのでしょう。「維持」というのは、こうした時間の経過に意図的に介入するのはよそう、ということです。

そして、一本の線が消えゆく中で、メンバー各自がいろいろな太さ、長さの線を引く、というのがこのプロジェクトのです。それぞれの線が・・・もちろん消えつつある線も含め・・・どのように接続するのかしないのか、そしてそれがわたしたちをどこに連れていくのかよくわかりませんが。

このプロジェクトの決めごとは次の二点です

・メンバーは部屋を維持する家賃を負担すること

・利用に際しては「現状維持・現状復帰の原則」を遵守することもちろん、維持すべきとされる「現状」には時間性が含まれるので、何をもって「現状」とするか、ということ自体がひとつのテーマです。

 ことほどさように実験的なプロジェクトです。スケジュールを御確認いただき、ぜひ三〇六号室に足をお運びください。

 
 
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